紅楼夢

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紅楼夢

  • 2019.04.30

     風薫る5月となりました。1年中で最も良い季節のひとつといえるでしょう。山々の木々は緑一色となり、すがすがしい空気を胸に吸う日々となりました。空には雄大な鯉のぼりが舞い、何ともいえない素晴らしい日々です。そして今月1日からは元号が令和と改められました。元号の刷新とともに気分を新たにし、何事にも取り組む気概を持つように決心したところです。

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     さて皆様は紅楼夢(こうろうむ、写真1)という中国の清朝時代に書かれた小説を御存知でしょうか?学生時代に社会や国語で名前を見聞きしたことがある人もいると思います。紅楼夢は「三国志」「水滸伝」「西遊記」とともに中国の四大名著といわれています。この中では日本人は西遊記、つまりその主人公の孫悟空には親しみを持っているので御存知の人も多いことと思います。しかし紅楼夢となると読んだ人は少なく、西遊記ほどの馴染みはないと思います。

     今回、日本笑い学会のオープン講座で紅楼夢がテーマとして採りあげられました。講演の演者は木村英樹・追手門学院大学教授です。木村先生によると全編120章のなかに「笑道」、これは「笑って言う」という意味ですが、この言葉が2000回近く書かれているのことが紹介されました。つまり紅楼夢には笑いが満ち溢れているというわけです。作品に出てくる人物にこれほど笑って話をさせるという作者には、興味が惹かれるところです。その作者とは曹雪芹(そう・せつきん、前80回を担当)、高鶚(こう・がく、後40回を担当)といわれています。小説の主人公は賈宝玉(か・ほうぎょく)という貴公子であり、内容は上流階級の人々の人情や日々の生活を描いたものであります。何となく日本の源氏物語を連想するところです。我が国においては紅楼夢は幸田露本などにより早くから日本語に翻訳されています。今も多くの人々を魅了して止まないところです。私自身も時間があれば一度、ゆっくりと読んでみたいと思っています。

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    写真1 アマゾンのHPからの転載

     紅楼夢という中国の書物に触れていると、(単純ですが)何とはなしに漢方医学のことを連想しました。そんな時に「子ども漢方薬&服薬指導」という講演会を聴く機会がありました。講師は小児科医の坂崎弘美先生です。講演内容は興味深いもので日々小児科診療に携わっている医師なら誰でも耳を傾けたくなる内容でした。講演のはじめに子どもにおける漢方薬の立ち位置をまず明らかにされました。それは西洋薬に治療法がない時でも漢方薬という選択肢があるということです。私自身も西洋医学の薬で経過が良くなく、漢方薬が有効であったという経験をすることがよくあります。そう、漢方薬をひとつの選択肢として上手く使えば小児科診療はスムーズにいくわけです。しかし薬剤の服用ということについては、子どもさんには困らされることがあります。それは西洋薬であろうと漢方薬であろうと同じ問悩みです。子どもさんは薬を上手く服用してくれないのです。全く薬剤を服用してくれないことも、よくあります。いくら良い漢方薬だといっても、子どもさんが服用してくれないと全くギブアップです。この難点を買い使用するため、漢方薬を服用し易くする具体的な方法が講演で紹介されました。

     今回の講演は小児疾患全般にわたる広いものでした。それでも日常的に小児科臨床医が身近に出会う状況に対し、具体的な漢方薬の処方が理論的に紹介されました。そのため参加者の広い理解が得られたところでありました。本ブログでは夜泣きについてだけ、講演のエッセンスを紹介したいと思います。

     夜泣きは多くの子どもさんにみられ、時にお母さん方を悩ませるものです。夜泣きは生後6カ月頃からはじまり、生後13カ月ぐらいまで続きます。夜泣きを辛いと感じるお母さんは、どのくらいいるのでしょうか?ルナルナ・ユーザーのアンケート調査「みんなの声」Vol.20(株式会社エムティーアイ)によりますと58.6%と過半数を越えるお母さんが夜泣きは辛いという結果でした。辛いとした理由は自分が十分に睡眠をとれないというのが最も多いものでした(図1)。ですから働くお母さんの多い現代では、子どもさんの夜泣きを軽く考えることは適切ではないでしょう。しかも夜泣きは虐待の原因のひとつにもなっており、軽視できません。厚生省によりますと心の問題で虐待死に至った事例7例のうち、3例が「夜泣き」を原因とするものでした(平成 25 年度の報告https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/0000099959.pdf)。このように夜泣きは小児科では問題とすべき疾患です。ところが夜泣きで悩むお母さんに「そのうち自然によくなります。添い寝をして下さい。昼寝を短くし、昼間は運動させてください。そのうち治るでしょう」などと医師は軽く言いがちです。これは小児科医としては十分な対応ではありません。お母さんは困っているのです。こんな時、お母さんに「大丈夫、効く漢方薬あるよ」と優しく言うとどうでしょうか。坂崎先生が講演で言うように、お母さん方の受け入れはスムーズです。私自身は夜泣きに対し抑肝散および甘麦大棗湯をよく処方しています。いずれも効果を実感しています。坂崎先生の話をもとにあらためて両薬剤について紹介してみます。

     まず抑肝散です。抑肝散は最近、認知症の周辺症状に効果がある薬剤として高齢者の方によく処方されています。すると「お爺ちゃんと同じ薬剤を服用している」とお母さんから言われることがあります。そんな時「元々、抑肝散は(文字どおり)子どもの肝のムシ(疳の虫)を抑える薬です。それが高齢者でもイライラなどに有効だとわかったのです」と説明しています。そんな抑肝散が著効しない子どもさんも経験します。そんな時には抑肝散加陳皮半夏の処方を試みることを坂崎先生は紹介されました。先生によりますと診察室での子どもさんの状況をみることが、参考になるとのことです。それは診察室でイライラ落ち着かず、キーキーという子どもさんであっても偏食で食が細い虚弱な子どもさんでは抑肝散加陳皮半夏が推奨されるというものです。これに対し甘麦大棗湯についてです。甘麦大棗湯は抑肝散と抑肝散加陳皮半夏とは異なり、診察室でおとなしく良い子の夜泣きには有効なのであります(図2)。しかも甘という字が入っているように甘くて飲み易いので大変子供さんは助かります。このように夜泣きといっても子どもさんの注意深い観察に基づき、漢方薬を処方することが重要であることが分かりました。

     最後に夜泣きと少し関係のある鼻閉に伴う睡眠障害です。子どもさんの鼻閉は思った以上に問題であります。子どもさんの鼻閉が睡眠障害をもたらすことには、あまり強く思い至らないものです(私だけかもしれませんが)。しかし睡眠がとれない子どもさんは、昼間眠くてつらいのです。外来でよく鼻水で鼻腔が完全閉塞し、つらそうに口を開けている子どもさんがいます。母親が「いびきをかき、寝られないので可哀そう」と言うこともあります。これは小児科医としては見逃してはならない状況です。小児科医も鼻汁吸引をはじめ(鼻閉では吸引しても鼻水がないこともあります)、抗アレルギー剤や消炎剤で対症療法をしています。それでも十分に有効でないことがあります。このような強い鼻閉に対しては葛根湯加川辛夷、越婢加朮湯が有効です。たしかに葛根湯加川辛夷を西洋薬に合わせて投与すると有効な印象が私もありました。越婢加朮湯は眠前に屯用で一回だけの処方で有効性があるということで興味を覚えたところです。このように漢方薬を理解して上手く使用することは、子どもさんのQOLの改善につながるものです。

     以上のように子どもさんにおける漢方薬は、ひとつの有効な治療であります。特に西洋医学で治療しにくい時には考慮することが必要です。今回、漢方の意義を再認識し、うまく子どもさんが服薬できる具体的な方法も呈示され、大変参考になったところです。

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    図1 「乳幼児の夜泣きについて」の調査結果

    『ルナルナ』ユーザーのアンケート調査「みんなの声」Vol.20

    株式会社エムティーアイ

    https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000252.000002943.html

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    図2 夜泣きのタイプと漢方薬

    当日の坂崎先生の講演原稿から

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