新年度です

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新年度です

  • 2019.03.31

     4月になりました。いわゆる新年度のスタートです。学校をはじめ、社会において多くの人が新しい生活を迎えることになります。季節も穏やかな春ということで何となくうきうきした気分になります。

     ところで我が国のように4月を新年度とする国は世界では少数派に属する様です。よく知られたようにアメリカでは9月が新年度であります。日本も明治の文明開化時には諸外国にならい9月が新年度でした。しかし、明治政府の税徴収の都合から4月に変更されました。それは忙しい米の収穫が終了し、国民の収入が確定するのを待つ必要があったからといわれています。つまり農家の人が働いて得た収入を十分に把握するために3月いっぱいかかったのです。だから新年度を4月まで待つのが時間的に余裕があって都合よかったからとされています。明治19年に明治政府は会計年度を4月からと決め、学校も新しい年度を4月からとしました。かくしてわが国では桜の季節とともに新しい年を迎えるという現在の体制が出来上がったのです。

     さて新年度、気分を新たに色々な仕事に打ち込むことにしまました。新年度という節目は、ともすればマンネリになる生活を見直すのにひとつの区切りとなると思います。そんなわけで今回は腸重積について考えてみました。

     

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       桜とともに新年度のスタート          嘔吐、腹痛の腸重積

     

     腸重積は子どもさんの代表的な緊急疾患のひとつであります。小児科の外来では、慎重に慌てて対応するべき疾患です。しかし(特に病初期では)診断が難しいことがあり、ときに診断に苦慮されられる疾患であります。幸い2012年に小児腸重積症のガイドラインが日本小児救急医学会から刊行され、日常の臨床現場では大変参考になっています(写真1)。発症して24時間以内に診断がついた時は内科的処置(高圧浣腸による整腹)で治すことが可能です。しかし診断が遅れ、発症して24時間以上が経過してしまうと外科手術が必要となります。さらに困ったことに高圧浣腸による整腹が上手くいった人でも約10%に再発があるという点です。また手術で治癒した人も何年にもわたって腸閉塞の発症するリスクが少数ながらあるのです。このように腸重積は小児科領域において、けっして見逃してはならない重要な疾患のひとつであります。

     腸重積はどのような病態かを一口で言いますと「口側の腸管が肛門側の腸管に引き込まれるもの」です(図1)。典型的な腸重積は、小腸の終末部(回腸)が大腸に入り込むタイプものです。図1では向かって右側が小腸終末(口側)、左側が大腸(肛門側)です。このように腸管が入り込んでしまうと腸管への血流循環が障害され、食べたものが詰まってしまいます。いわゆる腸閉塞(イレウス)が発症するわけです。これが腸重積の病態です。腸重積の発症原因については、まだ不明であります。ただ以前から腸管感染症が誘因となることが指摘されています。なかでもアデノウイルス感染症にかかった腸管ではリンパ濾胞肥厚や腸間膜リンパ節肥厚が発症し、そのため腸重積が発症すると考えられています。最近ではパレコウイルスの腸管感染も腸閉塞の原因とする報告もあります(松原千春ら、小児感染免疫 Vol. 30 No. 1)。ですから発熱、下痢、嘔吐などの消化管感染症があった子どもさんには、その後に腸重積のリスクがあるものと考えて対応することが必要と考えられます。

     次に腸重積の疫学についてです。まず発症の頻度です。従来、わが国では大規模な腸重積の病学統計はありませんでした。厚生労働省科学研究班による全国9都道府県における1歳未満の腸重積発症率は、1年間において99.9/100000人としています(https://www.msdconnect.jp/static/mcijapan/images/20181023.pdf)。また厚生省の統計は年間1000人前後の腸重積患者さんがいるものと推測しています(第4回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会予防接種基本方針部会)。ということは、それほど少なくない疾患といえます。また外国に比べて日本の腸重積は多いこと、幸い手術に至る前での発見が多いので内科的処置が多いとされています。次に腸重積の発症年齢についてです。感染症研究所の腸重積に関する報告(平成30年6月)があります。同報告によりますと1歳未満の子どもさんが全体の約60%であること、3ヶ月未満は稀なこと、そして6歳以上は少ないということが示されています。なお男の子は女の子の約2倍腸重積が多いとされています。

     次は腸重積の診断です。まず腸重積には腹痛、血便、嘔吐という3症状があり、また腹部腫瘤(ソーセージ様腫瘤といいます)を蝕知するとされています。これらは腸重積の診断上、極めて重要なことです。3症状のうち腹痛が最も頻度が高いとされております。もし腹痛に不機嫌、嘔吐、血便がある3ヶ月以上6歳未満の子どもさんを前にした時には、常に腸重積を考えて対応すべきです。ただ3症状がすべてある腸重積は10%~50%に過ぎません。なかなか症状がそろって出現しない、特に初期段階では症状はそろいません。血便も浣腸をしてはじめて確認されることがあり、腸重積の診断には浣腸が有効とされています。腸重積の腹痛は次第に強くなり、子どもさんの顔色は不良となっていきます。そして機嫌も悪くなっていく一方となります。大事なこととして腸重積の診断において超音波検査が極めて有効であるということです。超音波検査は腸重積の診断には絶大な威力を発揮するのです。腸重積のほとんどは回腸が大腸に入り込むタイプなので右側腹部から右上腹部にかけて超音波プローブを当てると診断精度が向上します。ターゲットサインや偽腎臓エコーという特異的な超音波所見があります。小規模医療機関では、腸重積の疑いが強く、また発症の24時間近く経過しているときは速やかに高次医療機関への転院が必要と考えています。ただ小規模医療機関には早期段階で受診される腸重積の子どもさんがおられるのは当然です。それ故、早期段階での腸重積に対する慎重な姿勢が常に第一線の小児医療機関では必要とされています。

     最後に腸重積とロタウイルス・ワクチンとの関係についてです。ロタウイルスによる子どもさんの消化管感染症は、非常にポピュラーな疾患です。誰もが一、二度かかる疾患です。軽症のロタウイルス感染症は外来経過観察だけで治癒します。しかし一部に重症となる子どもさんがおられ、入院せざるを得ないこともあります。特にひきつけを発症することもあります。特異的に有効な治療はなく、対症療法が中心です。以前はロタウイルス感染症の子どもさんが大変多く、嘔吐、下痢、発熱そして脱水に悩まされ、お母さん方も仕事休まざるを得ない状況でした。ところが、ここ数年はロタウイルス感染症の子どもさんを診ることが減少しています。それはロタワクチンを受ける子どもさんが増加してきたからです。ロタワクチンについては誰もが恩恵を受けているワクチンだと実感しています。しかしロタワクチンはけっして順調な開発経過をたどったわけではありません。少しその歴史を振り返ってみます。1998年、世界で初めてロタシールドという名前のロタワクチンが開発され導入されました。ところが腸重積を発症するということですぐに中止となりました。その後、ワクチンが改良され、製造されました。現在ではロタリックス(ヒトロタウイルス単価ワクチン)とロタテック(ウシロタウイルスをベースにした5価ワクチン)という2種のワクチンがあります。我国でも2011年から任意接種として両ワクチンが接種されています。現在、導入実施以来8年以上が経過しております。そのため多くの子どもさんが、ロタワクチンの接種を受けています。こうなるとワクチン接種後の問題、とりわけ腸閉塞について検討がなされています。当然、幾つかの報告がなされています。その一つに昨年の10月にロタテックワクチンを接種した子どもさんで腸重積を発症した件についての報告があります。詳細は略しますが、ワクチン接種後の腸重積発症率は自然発症率と差がないというものでした(https://www.msdconnect.jp/static/mcijapan/images/20181023.pdf)。WHOもロタワクチンの初回接種後には腸閉塞の僅かな増加があるものの、ワクチン効果が重症下痢や死亡の抑制に効果があると認めています。つまり予防接種の効果というベネフィットが腸重積発症というリスクを上回ると判断しているのです。大事なことは安全に接種を行うためには自然発症による腸重積が増加してくる前、つまり初回接種を生後14週6日までに実施してしまうことが必要です。また保護者の方には接種前に腸重積について説明する必要があります。さらに接種後には腹痛、嘔吐、血便、不機嫌などの腸重積を思わせる症状が出現した時は「ただちに受診するように」と説明し、理解していただくことが重要です(図2)。

     

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    写真1 監修:日本小児救急医学会

    編集:日本小児救急医学会ガイドライン作成委員会

    発行年月:2012年02月 ISBN 978-4-89269-760-9

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    図1 MSD社の保護者用パンフレットからの一部引用

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    図2 MSD社の保護者用パンフレットからの一部引用

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