春薫る季節

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春薫る季節

  • 2018.04.11

     あっという間に桜の花も散り去り、日ごとに木々との緑が美しい頃となってきました。六甲の山肌も緑に覆われてきました。気候も誠に温暖となり、何をするのにも気持ちの良い時となってきました。休日に海辺にあるレストラン(写真1)に立ち寄ったところ、春の情景を楽しむことができました。ところがここ数日は再び冷え込み、何と九州では雪が降ったとの報道がありました(9日付のメディア報道)。町ゆく人も慌ててダウンジャケットを着こむ姿が目立ちました。

     

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    写真1 浜辺のレストラン

     

     サルコペニアという言葉を最近よく見聞きするようになりました。疾病としてのサルコペニアの歴史はそう古いものではありません。ですから医師であっても理解が少し追いつかないところがあります。そんな中、「サルコペニア診療ガイドライン2017」が公表されました(写真2)。本ガイドラインを読み進めますとサルコペニアに対する理解が進みます。そこで今回は同ガイドラインを中心にサルコペニアのあらましを紹介したいと思います。

     サルコペニアという病名は1989年にIrwin Rosenbergという人 が米国学会雑誌にはじめて記載しました。ギリシア語で筋肉(sarcox)および減少(penia)を意味する単語を結び付け、sarcopeniaという造語が創りあげられたのです。Rosenbergの報告以来、約30年が経過し多くのサルコペニアに関する研究がなされました。2010年にはヨーロッパの研究グループ(EWGSOP: European Working Group on Sarcopenia in Older People)が世界初のサルコペニアに関するアルゴリズム(問題を解決するための手順という意味)を発表しました。同発表以降の研究ではEWGSOPのアルゴリズムが広く使われるようになっています。さらに2014年にはアジア人におけるサルコペニアの定義がAWGS(Asian Working Group for Sarcopenia)によって発表されました。現在では7種類の診断基準が公表されています。そして2016年になりサルコペニアと疾病はICD(国際疾病分語)に採用され、その名前が急速に認識され広まりました。つまり今では、サルコペニアという疾患を理解することは必須なのであります。そんな折、我が国で今回「サルコペニア診療ガイドライン2017」(図1)が日本サルコペニア・フレイル学会と国立長寿医学研究センターによって発表されました。これにより臨床現場でサルコペニアの対応が円滑になることが期待されます。今回は本ガイドラインの一部について紹介したいと思います。

     まずガイドラインに示されているサルコペニアの定義についてです。「高齢期にみられる骨格筋量の減少と筋力もしくは身体機能(歩行速度など)の低下により定義される」とガイドラインにあります。これだけではサルコペニアの理解があまり進みません。ただイメージとして高齢となって衰えた人を意味するのかと、何となく理解はできると思います。ガイドラインではAWCSの診断基準を示し、サルコペニアを把握するように解説しています。しかしAWCSの基準をみると筋肉量をDXA法やBIA法という特殊な測定法を用いねばなりません。つまり実際の臨床現場ではAWCSの基準を使うことは不可能です。加えてAWCSの基準はアジア人向けとはいえ、外国人を対象としたものであり体格が異なる日本人で直ちに応用することは適切ではありません。

     そこで日本人向けに考察された簡易基準法をお示ししたいと思います(図2)。この簡易基準は日本老年医学会で下方氏と安藤氏により発表されたものです。まずは65歳以上の高齢者で歩行速度が1m/秒未満、もしくは握力が男性で25㎏未満、女性で20㎏未満を指標とします。もし歩行速度、握力値が下回る時は脆弱高齢者とされます。さらに図2に従いBMIが18.5未満もしくは下腿周囲が30cm未満であるならば、サルコペニアと判定されることになります。このように簡易基準では身長、体重、握力計、メジャー、ストップウォッチがあれば、図2にしたがって比較的容易に診断ができます。ただ少し注意すべき要点があります。まず歩行速度についてです。その詳しい測定方法は省略しますが、直感的に言えば青信号で道路を難なく渡り切ることが出来れば速度が1m/秒以上ということになります。次に握力の測定です。図3に示したように被験者は座位(立位でも良い)とし、肘関節を直角に曲げます。この時、被検者に握力計の重さを与えないため検者が握力計を持つことが求められます。そして左右で2回ずつ測定し、大きい方の値を握力値とします。下腿周囲径は指輪っかテストが使われることもあります(図4)。もちろんメジャーで測定しても良いのですが、被検者本人が直感的に分かり易いので指輪っかテストを実施することがよいでしょう。このような留意すべき点があります。

     次にサルコペニアの人は、どのくらいの割合でいるのか、つまり有病率はどのぐらいなのでしょうか。もっとも有病率は調査対象によって異なりますし、診断基準によっても異なってきます。AWGSなどの疫学調査では65才以上の高齢者でサルコペニアの人は14~29%としています。さらに対象者が1000人を越える大規模研究ではサルコペニアの人は6~12%ぐらいではないかと推測されています。この辺りの値が、ほぼ有病率と考えられています。つまり高齢者では10%前後がサルコペニアというわけです。この10%前後という有病率は、けっして低いものではないと思います。したがって実地臨床の現場ではサルコペニアを意識して対応することが大切です。

     サルコペニアの危険因子は加齢がもっとも重要な要因であります。また活動不足、糖尿病などの代謝性疾患また栄養不良もリスク因子とされています。高齢者社会ではフレイルの人は大変大きな問題となります。高齢者の全身管理をしていくうえでサルコペニアは重要であります。

     最後に2016年度に国立長寿医療研究センターが発表したフレイルの評価基準を表1にお示しします(https://www.tyojyu.or.jp/net/byouki/frailty/shindan.html)。これはとても分かり易いサルコペニアの基準ですので引用させていただきました。本基準を参照にして、まずはサルコペニアに誰もが関心を持つことが大切であります。

     

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    図1 サルコペニア診療ガイドライン2017

       サルコペニア診療ガイドライン作成委員会 (編集)

       ライフサイエンス出版 (2017/12/25)

     

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    図2 サルコペニアの簡易基準案 下方浩史氏、安藤富士子氏による

       第53 回日本老年医学会学術集会記録 

       https://www.jstage.jst.go.jp/article/geriatrics/49/2/49_195/_pdf

     

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    図3 握力の測定

       サルコペニア診療ガイドライン2017 から引用

     

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    図4 指輪っかテスト  Wakunaga Pharmaceutical Co., Ltd.のHPから引用

       http://www.wakunaga.co.jp/health/month/post_116.html

     

     

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    表1 フレイル評価基準 国立長寿医療研究センターのHPから引用させていただきました

       3つ以上該当する場合はフレイル、1~2つ該当する場合はプレフレイル、

       いずれにも該当しない場合は健常

       https://www.tyojyu.or.jp/net/byouki/frailty/shindan.html

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