まもなく大晦日

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まもなく大晦日

  • 2017.12.26

     今年もまもなく大晦日を迎えることになります。歳月の過ぎ去るのは、まことに早いものです。今年一年を振り返り、色々と反省することが多く顔が赤面することを覚える状況です。ともかく毎日の生活はそれなりに重みのあるものです。そこを何とか大過なく過ごすことが幸いと感じています。こんなことを考え、神戸の町に出かけたところクリスマスが過ぎ正月モードに突入する気分が溢れていました。三宮駅前はそんな状況でした(写真1)。皆様におかれましてもお疲れの出ることないように穏やかな年の瀬を御過ごし下さい。そして良いお年をお迎えください。

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    写真1 三宮駅前の風景

     

     さて正月休みが目前となったので休み中の計画を立てようかと考えていたところ、1年前に講演会の依頼を受けた団体から郵便物が届きました。その団体からは機関紙が時々送られてくるので、今回も機関紙かと思い2,3日そのままにしていました。なにしろ今は開業医が1年中で最も多忙な時期ですから、これは止むを得ないところです。来着した郵便物、そして電子メールもこの時期は開封が遅れることが、しばしばです。

     ようやく時間が空いたので開封したところ、1年前に行った私が行った講演の記録を記事にした書類が入っていました。口述された講演内容を文章に起こしたものであります。いや、この文章起こしをされた人の労苦は並大抵ではありません。かなり驚きました。私も他人の講演で1時間弱くらいの話をテープに記録したものを耳で聴き、文章に起こした経験があります。ですから、その大変さは理解できます。専門用語を早口で言われたとき、聞きなれない略号、そして不明瞭な言葉は文章起こしをする人には「???」となってしまいます。

     そして文章にされた自分の講演内容を読み、愕然としてしまいました。それは講演での口調、言い回しが良くないことが分かったからです。もし講演前に「全面的に文章起こしをします」ということを聞いていたなら、「もう少し丁寧な言葉を選んだものを」と後悔しました。それはともかくとして、「この文章を機関紙に掲載したいとの意向である」と申し添えられており、これは大変な事態だと感じました。我ながら論旨の持っていき方が良くないこと、また理論的にも一貫性に乏しいところもあること等々、したがって手直しをせねばならないと直感したからです。たしかに一般的に言って講演をそのまま文章にすると、結構読みにくいものと思います。夏目漱石が明治44年に和歌山で行った「現代日本の開化」という有名な講演があります(写真2)。この講演記録を読むと漱石の小説とは異なり、少し読みづらい感じがします。つまり講演を文章化したものは分かり難いもの(私が勝手にですが)と考えています。そんなわけで今、講演記録の文章を前にして手直しにとりかかっています。そんなわけで本業の合間に校正に取り組んでいる今日この頃です。何とか、年内に何とか人前に出せる文章にしたいと頑張らざるを得ない年末です。

     さて、そんなわけで他の仕事を抱えながら日常の臨床業務を第一とした生活を特に年末はしなければなりません。幸いなことに今年は現在のところ、まだインフルエンザの大流行がありません。風邪の患者さんも少なく、外来の状況は落ち着いています。とはいえ、いつ何時、インフルエンザをはじめとする感染症の嵐が襲来してくるか分かりません。それに備えるというわけでもありませんが今回は特に咳について少し勉強してみました。

     内科、小児科の一般外来においては発熱、鼻水などの上気道炎症状とならんで咳を訴える患者さんは大変多いところです。すぐ消失する一過性の咳には、さほど人間は悩むことはありません。しかし咳が長引くと患者さんは大変辛い思いをします。長引く咳についでは医学上の定義では3週間以上咳が持続する時、これを慢性咳嗽としています。慢性咳嗽の原因には感染症によらないものと感染症によるものとがあります。多くの医学統計によりますと一般に前者の方が後者よりも多いとされています。前者には気管支喘息、感染後咳嗽、咳喘息などのアレルギー性疾患があり、後者には肺結核、マイコプラズマ、百日咳、クラミジア感染症などがあります。いずれの疾患であるにせよ、外来では慢性咳嗽の人については常に注意し、慎重に診断する必要があります。

     今年最後のテーマとして咳が長引く百日咳をとりあげてみたいと思います。それは久しぶりに三種混合ワクチンが再登場するという話に接したからです。2014年に三種混合ワクチンは、四種混合ワクチンの登場によりいったん姿を消しました。今回数年振りに再登場することになりました。三種混合ワクチンのパンフレットをみて懐かしさを感じるところです(なお二種混合、三種混合、四種混合ワクチンについての詳細は、あとでお示しします)。

     では何故、三種混合ワクチン(以下、三混)が再登場するのでしょうか。その最大の理由は、成人や年長の子どもさんに百日咳の小流行があり、これを阻止したいからです。国立感染症研究所の疫学データをみても百日咳は決して少なくありません(図1)。それどころか最近、子どもさんを中心に増加しているのです。当院でも咳が長引いて困っている患者さんの中に軽症の百日咳の患者さんが少数とはいえおられます。これらの患者さんは小児期に三混を規定通りきっちりと受けていなかった人、または受けていても十分な抗体量が維持されていない人です。そこで「三混を追加接種として再接種し、百日咳の抗体価を上げよう」というものです。諸外国では、この三混の追加接種が当たり前として実施されていますが我が国では遅れているというのが現状です。現在は11歳~13歳未満で実施されている二混ワクチンに代わり、百日咳が入った三混を実施するというものです。まだ現段階では制度の詳細は不明ですが、三混による百日咳の発症予防制度が創設されようとしています。これが三混の再登場の理由です。なお、百日咳に関するワクチンの詳しい内容は後で紹介します。

     このように制度の変更創設が考えられていますが、困ったことに(あとでも紹介しますが)百日咳は感染力が強く、時に家族の全員が百日咳を発症するという事態もあります。しかし一般の人も医師も何となく百日咳は過去の病気であり、少ない疾患という錯覚をもっています。そのため積極的に百日咳を疑うこともなく、診断が遅れがちになる危険がありますが、けっして忘れてはならない疾患です。いうまでもなく百日咳の名前の由来は、子どもさんが罹かれば百日間にわたり咳が出現するからです。三混がなかった昔は致死的な疾患でした。というわけで、次にあらためて百日咳について復習してみました。

     まず百日咳の診断と症状についてです。まず診断です。図2に小児呼吸器感染症ガイドラインによる百日咳の診断について示しました。このガイドラインは参考になりますが、実際にはこのような典型例はそれほど多くはありません。受けた予防接種の回数が少なく効果が十分ではない人では症状も軽症の咳にとどまるからです。ですから他の疾患と診断する危険もあります。小児科外来では何よりも先ず母子手帳をみて三混ないし四混の接種歴を確認します。そして家族や周囲に同じように咳をしている人がいないかを確認する必要があります。また百日咳の潜伏期間は7ないし10日ですので、これを考慮することも必要です。

     次に症状についてです。図3にセルフドクターのHPに掲載された百日咳の経過と症状が大変わかりやすいので引用させていただきました。百日咳は潜伏期、カタル期、痙咳期そして回復期という段階に分けられています。病初期の潜伏期またカタル期の初期では、典型的な症状が乏しく他の疾患との区別が極めて困難なため診断がつきにくいことが知られています。困ったことにカタル期から次第に咳が強くなり、すでにこの時期から周囲への感染力は非常に強いのです。その理由ですが百日咳菌は空気感染をするからです。麻疹ウイルスやノロウイルスも百日咳と同様に空気感染するので感染力が強く、これに対しインフルエンザは主に飛沫感染ですから感染力は弱いものです。このように百日咳については診断と症状だけでは対応が難しいものです。そこで図2の下段に示されている検査に頼ることになります。すでに以前から血液検査による抗体検査があり、その解釈は図4通りです。しかし血液検査に代わり、最近ではLAMP法による百日咳菌の分離が健康保険でも可能となったので初期段階からの早期診断が可能となってきました。以上のように症状や検査から百日咳は診断されます。

     治療についてはマクロライド系抗菌薬であるクラリスロマイシン,アジスロマイシンなどが有効です。特にカタル期において有効であり、服用開始してから5 日後には菌の分離はほぼなくなるとされています。念のため投与期間は2 週間必要とされています。さらに痙咳期(この時期に診断がつくことも多い)になってもマクロライド系抗菌薬の投与が必要ですが、これは周囲への感染抑制という意味合いが強くなります。

     以上のように百日咳は重要な疾患です。そして大切なことは百日咳の予防接種であります。我が国の百日咳のワクチンの歴史を振り返りますと1968年から三混が開始されました。ところが1975年に副作用のためにいったん三混は中止となり、その改良が進められました。その改良とはワクチンの製造に当たり百日咳の細胞を使わず、菌体を精製する方法がとられました(これによって作られたワクチンをacellular vaccineといいます)。ようやく改良が完成し、1981年に現在の三混が全国で再開されました。ですから1975年から1981年の6年間にわたり百日咳ワクチン接種が中止されていたため、現在40歳前後の人は百日咳の抗体が無いので百日咳のハイリスク群ということになります。改良された三混はDaPTワクチンと呼ばれ、これはDiphtheria(ジフテリア)、Pertussis(百日咳)、Tetanus(破傷風)の頭文字をとったものです(なおDaPTのaとは先に述べたacellular vaccineのaのことです)

     さらに2012年になってDaPTにポリオワクチンであるIPVが追加されて四種混合ワクチン(DaPT―IPV)となり現在、接種が実施されています。

     一方、外国での百日咳ワクチン事情は、日本と異なりDaPT ではなくTdapというワクチンが使用されています。TdapとはTetanus(破傷風), Diphteria(ジフテリア), acellular Pertussisの頭文字をとったものです。国内のDaPTと外国のTdapの違いは、成分が違うだけであります。その成分の違いとは外国のTdapは皮膚の局所反応を減らすことを目的に百日咳の菌体を少なくし、かわりに病原因子を含んでいる点です。現在、日本ではTdapは承認されていませんが、DaPTとTdapは効果において差はないとされています。このように日米間では製品としてのワクチンの成分に少し違いがあります。

     そこで米国の百日咳の実情です。米国ではとりわけ青年と子どもさんの百日咳が減少しないので種々の対策が講じられています。しかしながら接種率が低いこともあり、家族内感染による子どもさんの百日咳が問題となっています。特に母親から百日咳に感染した6ヶ月未満の乳児は、予後不良なので問題は深刻です。そのような現状に対し、米国ではTdapによる予防接種を徹底する制度をとっています。特に妊婦さんにワクチン接種するといういわゆるcocooning(マユで中のさなぎを守るという意味)という方法があります。これは妊婦さんにTdapを接種することによって百日咳抗体を子宮内胎児に移行させ、赤ちゃんの百日咳予防をしようという方法です。このcocooningにより新生児、乳児の百日咳予防効果があるとされています。妊娠中に予防接種を受けるということについては米国で出産する日本人の妊婦さんが驚くことがあります。

     日本の対策は米国と異なり、現在実施されている二混(DT)から三混(DaPT)への変更が考えられています。お馴染みとなっている小学校6年生の二混(DT)が三混(DaPT)に変更され、三混(DaPT)の追加接種ということになるのでしょう。以前の三混が新たに追加接種の承認を受けたとのニュースも入ってきており、その用法・用量についても今後明らかにされる様子です。いずれにしろ、ようやく我が国でも百日咳ワクチンの追加接種が先進諸国並みに実施される可能性があります。新しい制度が確立し、百日咳の減少する日が来ることを祈るところです。

     それでは長くなりましたが皆様、良い年をお迎えください。

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    写真2 現代日本の開化 アマゾンで入手可能です

    https://www.amazon.co.jp/%E7%8F%BE%E4%BB%A3%E6%97%A5%E6%9C%AC%E3%81%AE%E9%96%8B%E5%8C%96-%E5%A4%8F%E7%9B%AE-%E6%BC%B1%E7%9F%B3-ebook/dp/B009IXK2EO

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    図1 国立感染症研究所のHPからの引用

    2007年には0.97に増加し, 2008~2012年は1.30~2.24であった。2013年には0.53と減少したが, 翌2014年から増加傾向を示している

    https://www.niid.go.jp/niid/ja/id/612-disease-based/ha/pertussis/idsc/iasr-topic/7075-444t.html

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    図2 百日咳の診断基準 小児呼吸器感染症ガイドラインから

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    図3 百日咳の経過と症状

    セルフドクターのHPより引用させていただきました

    https://www.selfdoctor.net/q_and_a/2012_06/03.html

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    図4 百日咳血清診断の目安 

    株式会社 シー・アール・シーのHPから引用させていただきました

    http://www.crc-group.co.jp/crc/q_and_a/146.html

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