忘年会シーズン

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忘年会シーズン

  • 2017.12.22

     忘年会たけなわの時期です。人によっては幾つか忘年会を掛け持ちすることもあるでしょう。外は寒いし宴席で、ついアルコールが入って食べ過ぎてしまう季節です。ですから体調を崩さないように注意をしましょう。少し前に神戸の街の中心部に出かけたところ、ルミナリエのためにたいへん大勢の人で混み合っていました。さらにクリスマスも目前です。歳末で仕事も忙しく、その一方で色々な忘年会までの行事も重なることと思います。そこで誰もが自分の体を大切にし、今年の残り少ない日々を送るようにすることが大切です。

     

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    写真1 神戸のルミナリエ 

    神戸ルミナリエ組織委員会オフィシャルHPから

    http://kobe-luminarie.jp/index.html

     

     最近の小児科外来では予防接種業務のウエイトが高くなり、いきおい健康な子どもさんに接する機会が多くなっています。日本の予防接種体制は、少し前まで「他の先進諸国と比べて20年の遅れがある」といわれていました。しかし、我が国の予防接種制度の改変・整備は目ざましい勢いで進められ、現在ではようやく先進諸国並みの制度となりました。昔は(といっても、ほんの数年前のことですが)、小児科外来では子どもさんの肺炎、髄膜炎を大変に恐れたものです。高熱の続く子どもさんを診れば、常に肺炎、髄膜炎が頭の中をよぎったものです。ところが今ではかつて恐怖とされていた肺炎、髄膜炎はだいぶ勢いを潜めています。なかでも髄膜炎菌による小児侵襲性ヒブ感染症、これにはヒブ髄膜炎とヒブ菌血症があるのですが、今や予防接種の普及により劇的にヒブ髄膜炎は発症が見られなくなってきました。しかし安心、油断はできませんが、ヒブ感染症の脅威は、予防接種の普及のおかげで過ぎ去りつつあるのです。図1に示すように小児科侵襲性ヒブ感染症は2014年には、喜ばしいことに発症が0になったのです。ヒブワクチン導入されたのは2008年12月ですので6年にしてヒブは追放されてしまったといえるでしょう。

     

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    図1 侵襲性ヒブ感染症の有病率  2014年以降は発症がありません

    小児科診療80(2),165-169,2017からの引用

     

     以上のようにヒブワクチンは大変有効であります。私のような小さな診療所でも患者数減少を実感しております。

     しかしヒブワクチンとは対照的に「インフルエンザ(以下インフル)ワクチンが有効であるという印象」を正直なところあまり受けません。せっかくインフルワクチンを受けたのにインフルにかかってしまったという人を毎年10人近く経験しています。すると、「インフルのワクチンが効かない」というインパクトを医者も患者も受けてしまうことになります。インフルの予防接種は効かないという壁に直面するわけです。反対にワクチンを受けたから、かからなかったという人に出会う機会は、あまり経験しません。ですから「インフルワクチンは効かない」という心情を持つことは当然の成り行きというわけであります。しかし、ここで冷静に考える必要があります。感情的な印象で有効性を評価することは妥当ではありません。インフルワクチンの有効性評価には科学的な疫学的検討が必要なのであります。

     では、その科学的な疫学的検討とはいかなるものでしょうか?その一つの方法として以前に本ブログでも少し触れたことがあるTest-negative design法があります。本方法の概略をあらためて紹介します。インフルだと思って受診した人に対し、インフル検査を実施します。そして検査で陽性の人(インフルであった人)と陰性の人(インフルでなかった人)の2群に分け、それぞれの群においてワクチンを受けたか否かをみるという方法です。ここで注目していただきたいのは「インフル検査で陰性=インフルにかからなかった人=陰性の人を中心に考える」という点です。つまり陰性=negativeという点に注目するのでTest-negative design法というわけです。これだけでは具体的には、あまりイメージが分からないと思います。それは日本では疫学検討の基礎にある統計学の教育が少ないこと、また統計学は数学に比べ教育に割かれている時間が少ないということが挙げられます。少し大げさに言えば、日本人のDNAに統計学が刷り込まれていないのです。しかし医学論文が世界で認められるためには、疫学的統計の評価が正しくなされていなければなりません。たしかにカイ二乗検定などは比較的知られていますが、しかしTest-negative design法、さらにこれを用いた時に出てくるオッズ比はそれほど知られていないように思います。オッズ(odds)とは見込み、確率、可能性と英和辞書にあり、昔からオッズはギャンブルで見込みを示す指標として使われてきた方法です。しかし正直馴染みがありませんし、今ひとつピンときません(少なくとも私は)。

     そこでオッズ比を直感的に分かりやすく理解していただくため、一つの架空例を挙げて解説してみます。男100人、女100人を対象とし、酒を飲む人と飲まない人を調べたところ表1のようになりました。酒を飲む比、これをオッズと言いますが、男では80/20=4.0、女では20/80=0.25と算出されます。男はオッズが4.0、女はオッズが0.25なので、男は女よりも酒を飲む人が多いことが数字でよく分かります。このとき、男は女より、どのぐらい酒を飲む人が多いのでしょうか、それには男のオッズを女のオッズで割ったオッズ比が応えてくれます。いわば女を1.0としたとき、男はどのぐらいのものかを評価するわけです。つまり、オッズ比は4.0/0.25=16.0となります。オッズ比は16.0と高く、これは酒を飲むということに男女差があることが示されています(以上はWINラボのわかりやすい説明を参照させていただきましたhttps://winlabo.com/post-1531)。

     

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    表1 男女100人における酒を飲む調査結果

     

     さらにまた表2のように架空例を挙げてみます。男女100人における酒を飲む調査結果その2としてみました。数値は男女とも同数の50人でありましたのでオッズは男女ともに1.0となります。ですからオッズ比も1.0となります。つまり直感的にお分かりと思いますがオッズ比が1.0ということは酒を飲むということに男女差がないということなのであります。要はオッズ比1.0であれば、両者間に差がないということを意味しています。

     

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    表2 男女100人における酒を飲む調査結果 その2

     

     以上を理解していただいた後は、いよいよ実際の疫学データの解析についてです。厚生労働省研究班によって報告されたインフルワクチンの予防効果に関する結果を表3に示しました(これは、報告を改変をしたものです)。この結果を対象とし、Test-negative design法による検討してみたいと思います。

     本疫学調査で対象となったのはインフルになった人424人およびインフルにならなかった人490人です。この2群においてワクチンを受けなかった人、および受けた人が、それぞれ何人いたかを調べ、その結果を示したものが3表であります。ここからは表1の架空例を頭に置きながら検討していきたいと思います。

     

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    表3 6歳未満児におけるインフルエンザワクチンの有効性

    2015/16シーズンのまとめ(厚生労働省研究班報告)

    https://www.niid.go.jp/niid/ja/iasr-sp/2413-related-articles/related-articles-453/7667-453r04.html

     

     まずインフルになった424人では157人がワクチンを受けていました。するとオッズは157/267で0.59と計算されます。オッズからはインフルになった人ではワクチンを受けた人が少なかったことが示されています。これに対しインフルにならなかった490人では272人がワクチンを受けていました。オッズは272/218で1.24と計算されます。つまりインフルにならなかった人ではワクチンを受けた人が多かったことが示されています。

     ここで表1の架空例を思い出していただき、オッズ比を計算していただきましょう。すでにお話ししたようにワクチンによる予防効果があることはオッズの0.59と1.24をみれば直感的に分かりますが、0.59を1.29で割った数値0.48(0.59/1.24=0.48)、これがオッズ比となります。ようするに「インフルになった人のほうが、インフルにならなかった人に比べ、ワクチンを受けていなかった」ということです。つまりワクチンの効果があるということが示されているのです。お分かりでしょうか。

     もし結果が下記の表4の様に全く同数であればどうでしょうか。表2の架空例のようにオッズ比を計算すると1.0となります。オッズ比が1.0ということはワクチンによる差がない、つまり効果がないということを意味します。

     以上のことからワクチンによってインフルの発症は1.0から0.48下げられており、ワクチン効果が示されています。

     

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     表4 全く同数の結果である場合。オッズ比は1.0となり、有効性はない

     

     かつては病学的知識が乏しかったためにインフルワクチンが効かないと誤った判断がなされていたのです。例えば表3の解釈として「インフルになった424人のうち157人、実に37パーセントがワクチンを受けていたのにかかってしまった。これは効果がない。一律全員にワクチンをすることは無意味である」というような考えです。今後は科学的で客観的な評価が必要です。今や医学論文はオッズ比などの科学的評価が用いられていないと信用性がありません。それにしても私自身も統計疫学については、あまり造詣が深くはありません。例えばオッズ比の信頼区間などについては、今後もより一層学んでいきたいと思っています。また今回も誤解して書いていることもあるかと思います。今後の研鑽に努めていく所存です。

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