師走を迎えて

078-861-0806

トピックス

topics

初診予約はこちら

師走を迎えて

  • 2017.12.08

     今年も師走を迎えました。つい最近まで「今年の夏は暑い、暑い」などと言っていたような気がします。しかし、はや1年の納めの12月となりました。師走となった神戸の街を三宮から元町まで歩いたところ、街は恒例のルミナリエの準備に追われていました。今年は12/8(金)~12/17(日)までの開催とのことです。聞くところによると例年より少し規模が大きいとのことです。まだイルミネーションが点灯していない、いわば骨組みの構造物だけでも十分にインパクトがありました(写真1,2。これら写真は撮影者の厚意により掲載しています)。また、北野坂の方へ足を向けると教会でチャリティー・コンサートが開催されていました(写真3)。野宿者の人々のためのチャリティーとのことでした。わずかばかりのチャリティーを受付で行ない、会場に入りました。クリスマス・ソングも聞くことが出来、心温まるひとときを過ごすことが出来ました。

     

     さて慌ただしい時こそ「静かに勉強する必要がある」と思い机に向かいました。今回は甲状腺疾患について基本を復習し、また最近の知見についても学びました。

     甲状腺疾患の罹患率は、ある調査によると男性1.05%、女性1.51%という高いものです。女性に多く、いわば女性の病気なのです。甲状腺疾患は罹患率が高いため、外来において時々遭遇することがあります。また表1にも示したように近年、外来を受診される甲状腺疾患患者さんが増加していることが厚生省の患者調査から明らかになっています。これは医師の甲状腺疾患に対する意識の向上、また検査方法の改善などによるものと考えられます。それでも普段から気を付けて意識していないと甲状腺疾患を見落としてしまう危険があります。

     では、甲状腺疾患の患者さんの実数はどのぐらいなのでしょうかこれについては日本甲状腺学会の調査があります。これによると我が国における甲状腺疾患の羅患数は500~700万人とのことです。つまり甲状腺疾患の人は大変多いのです。このなかで治療が必要な患者さんは約240万人と推計されています。ところが厚生省の患者調査によると治療を受けている人は約45万人(20%程度)にすぎないのです(表1)。つまり未治療の甲状腺疾患の人が多くおられるのにもかかわらず、十分な治療がなされていないというのが現状なのです。その理由は甲状腺疾患の症状が様々にわたるため、不定愁訴などと診断され、見逃され誤認識されている可能性が高いためと考えられています。また症状が年齢・性別によって違いがあること、検査方法が多くあるためにかえって対応が難しいなどの理由あげられます。このため外来診療では分かっている様で分かりにくい甲状腺疾患を常に意識していないと、忘れそうになりがちです。日本甲状腺学会では5月25日を「世界甲状腺デー」と決め(図1)、甲状腺疾患への認識を高めるようにもしています。ともかく甲状腺疾患には様々な種類があり、分類が複雑という厄介な疾患なのです。しかも各疾患において臨床症状の程度に違いがあること、また検査結果の評価についてもある程度の経験が必要なこと、そのため疾患の診断が困難なことがあります。要するに甲状腺疾患は多いものの、症状が人によって様々なので、すぐに診断がつきにくいのであります。

     そこでまず甲状腺疾患の種類と分類について紹介し、疾患に対する考えを整理したいと思います。これについては教科書的に幾つかありますが、捉え方の違いによりにより様々な分類があります。その中で大阪福祉事業財団・すみれ病院の浜田昇・院長が講演で紹介された分類が分かり易いように思いますので(独断と偏見ですが)これを表2にお示ししました。表2を一目みて甲状腺疾患には種類が多く、複雑であることがお分かりいただけると思います。ですから今回、全てを紹介することは不可能です。そこで表2の右にある甲状腺機能低下症のひとつである橋本病に絞って紹介したいと思います。もちろん甲状腺中毒症(代表的な疾患にバセドー病があります)も重要な疾患ですし、甲状腺癌もまた無視できない疾患ですが、これらの疾患については、また別の機会に譲ることにしたいと思います。

     橋本病とは1912年に九州大学の橋本策・博士(1881―1934)によってはじめて報告された甲状腺の疾患です。橋本先生はドイツの外科雑誌に投稿し、組織検査で定義される疾患であるとしました。橋本病の原因については、現在でもまだ不明です。自己免疫性疾患であること、また遺伝性疾患であるとされています。30歳から40歳の人に多く、男女比は1:10~20と女性に大変多い疾患です。日本人における橋本病の有病率は男2.8%、女11.8%とする報告もあり、橋本病の診断を受けていない人が多くいるものと推測されます。その理由は、橋本病が、時間的な経過において症状に変遷がみられ、発見しにくいからです。すなわち無症状の人がいるかと思えば、その一方で甲状腺機能低下症を呈する人まで様々であるため診断が困難なのです。

     次に橋本病の症状と診断についてです。通常、橋本病の人は慢性甲状腺腫(甲状腺が腫れること)および甲状腺機能低下症を呈することが知られています。しかし甲状腺腫は高齢者では明らかでないこともあり、その甲状腺機能低下症の症状も軽い人から重い人まで色々とおられます。まず軽い症状では無気力、更年期障害、うつ病、疲労、月経異常、便秘、体重増加、認知症などがあります。重い症状には浮腫、筋力低下、貧血などがあります。このようにそれこそ多彩な症状がみられ、なかには甲状腺機能が正常で無症状のこともあります。そのため軽症の人では不定愁訴と診断されることもあり、また認知症と判断されることもあります。このような多面な顔を持つ橋本病に対し、的確な判断を下すために「慢性甲状腺腫(橋本病)の診断ガイドライン(表3)」が日本甲状腺学会により出されています。日常臨床においては常に橋本病を念頭におき、ガイドラインを参考にして必要な血液検査をすることが大切です。血液検査はまず甲状腺機能検査として甲状腺ホルモン(T4)とTSHを測定して甲状腺機能の低下について検討します。次に表3のガイドラインのb)に示された抗甲状腺自己抗体を測定しまが、2の抗サイログロブリン抗体がもっとも橋本病の診断には感度が良いとされています。もし甲状腺が触診でびまん性に腫れており、しかも抗サイログロブリン抗体が陽性であれば橋本病と診断され得ることになります。このように触診と血液検査および画像診断も合わせて実施すれば診断精度は向上するわけです。

     最後に治療についてです。治療は甲状腺機能の程度によって異なってきます。甲状腺機能が正常であれば治療は必要なく、定期的な血液検査による経過観察とします。甲状腺機能が低下しているときは甲状腺ホルモン補充療法が必要です。この補充療法はTSH濃度を測定しながら適宜実施していく必要があります。

     橋本病、この日本人医師の名前がついた甲状腺疾患は印象的な名前なので誰でもすぐに覚えるでしょう。事実、一般の人の間でも橋本病はある程度知られています。私自身は医学部の学生時代に古い知人の中年の御夫人から、「私は橋本病です。でも治療は要らないのです」と言われたことがあります。まだ橋本病を大学で学ぶ前であったので、あわてて病理学の教科書を開いた覚えがあります。それから数十年が過ぎました。しかし現在でも橋本病の正しい診断と対処については、案外不十分ではないかと思われてなりません。いずれにしろ外来では橋本病を初めとする甲状腺疾患に関心を払い、診察では必ず甲状腺の触診を忘れないこと、適切な検査をすることが重要です。

    171208 1

    写真1 ルミナリエの準備

    171208 2

    写真2 ルミナリエの準備

    171208 3

    写真3 チャリティコンサートの女声コーラス

    171208 4

    図1 世界甲状腺デーのポスター

    https://search.yahoo.co.jp/image/searchp=%E4%B8%96%E7%95%8C%E7%94%B2%E7%8A%B6%E8%85%BA%E3%81%AE%E6%97%A5&aq=-1&ai=00lHuu3_T4aaHsbZG0y.eA&ts=3336&ei=UTF-8&fr=top_ga1_sa

    171208 5

    表1 甲状腺疾患の推移 平 成26 年 患者調査

      厚生労働省大臣官房統計情報部による

    http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/kanja/10syoubyo/dl/h26syobyo.pdf#search=%27%E7%94%B2%E7%8A%B6%E8%85%BA%E7%96%BE%E6%82%A3++%E6%82%A3%E8%80%85%E8%AA%BF%E6%9F%BB+%E5%8E%9A%E7%94%9F%E7%9C%81%27

    171208 6

    表2 甲状腺疾患の分類 大阪福祉事業財団・すみれ病院の浜田昇・院長の講演原稿から

    https://www.bing.com/images/searchview=detailV2&ccid=zo4jDKJk&id=89FC530B5E43D8F1C33EDE71F494FFD5F8C20ACF&thid=OIP.zo4jDKJkFw8yTrjuPinLWgEyDM&q=%e7%94%b2%e7%8a%b6%e8%85%ba%e7%96%be%e6%82%a3%e3%82%92%e8%a6%8b%e9%80%83%e3%81%95%e3%81%aa%e3%81%84%e3%82%88%e3%81%86%e3%81%ab%e3%80%80&simid=608055280969516321&selectedIndex=0&ajaxhist=0

    171208 7

    表3 橋本病の診断ガイドライン

    http://www.japanthyroid.jp/doctor/guideline/japanese.html#mansei

pagetop