11月から師走へ

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11月から師走へ

  • 2017.12.01

     11月23日の勤労感謝の日が過ぎ、あっという間に師走となりました。今回は勤労感謝の日について少し調べてみました。制定されたのは昭和23年7月、国民の祝日に関する法律に基づき実施されました。最近になって相次いで制定された山の日、海の日などの祝日とは異なり、勤労感謝の日は古い存在なのです。誰もが慣れ親しんだ祝日といえるでしょう。趣旨は文字通り「勤労を貴ぶ日」ですが、元々は新嘗祭(にいなめさい)という五穀収穫を祝う日でありました。新嘗祭は祝日としてすでに明治時代から11月23日に決められていたのです。それが第二次大戦争後に勤労感謝の日と新たに定められました。ですから固定された休日としては最も長く続いていることになります。因みにアメリカでは勤労感謝の日に似ている感謝祭という日があります。その日は11月の第4木曜日と定められています。感謝祭はthanks giving dayといわれ、家族などが集まって食事をする重要な日となっています。テレビの外国ニュースなどで七面鳥料理が報道されるのも、このthanks giving dayの日であります。そんなわけで勤労感謝の日に働くことの意義について少しばかり考え、また机に向かって休日にしかできない学習に取り組みました。勤労感謝の日が過ぎ、普段の生活を数日送ったところで慌ただしい師走を迎えることになりました。

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     今回は抗微生物薬適正使用というテーマについて考えてみました。以前、薬剤耐性(以下AMR、Antimicrobial Resistance)について少し紹介しましたが、これに基にして具体的な動きが現在、国を中心として推進されつつあります。その象徴的なものが厚生労働省の作成による「抗微生物薬適正使用の手引(以下、手引き)」(図1)であります。これは今年の6月に公表されました。本手引きの作成に関わった兵庫県立こども病院感染科の笹井正志・科長の講演を聴く機会がありました。帰宅後色々と文献を読んでもみました。そのあらまし(というか、一部だけ)を紹介することにします。

     2016年の志摩サミットでは貧困、テロなどがテーマとなりました。その他、AMR対策についても話が及びました。ただ日本のメディアはAMRについて大きく報道していませんでした。医療従業者にもあまり知られていませんでした。正直なところ、以前でも本ブログで書きましたが、AMR対策について日本は先進諸国に遅れをとっているのです。そのためサミットの後から厚生労働省はAMRに対し、極めて積極的な行動をとりはじめました。不適切な抗微生物薬の使用は、薬剤耐生菌および感染症を増加させるということに強い危機感を厚生省、国が持っています。国は、本腰を入れているのです。このまま不適切な抗微生物薬を使用し続け、また効果的な対策を講じなければ、2050年には世界で1000万人が薬剤耐生菌のため死亡するとさえ予想されているのです(図2)。図2から分かるようにがんよりもAMRによる死亡者数が多くなるという予想です。これは、大変大きな問題といわざるを得ません。なにしろ薬剤耐性菌の増加は極めて著しいスピードで起こるのに対し、これに対する抗菌剤の創薬は全く間に合わないのです。そこで厚生省は国民の意識を高めるため、機動戦士ガンダムのパイロットであるアムロとAMRをかけたポスターまで作成しました。国がAMR対策に力を入れている姿勢がポスターで示されています(図3)。このような国の積極的な動きがあり、最近は臨床医の方々もAMRに関心を強く持つようになっているように思います。インターネットを閲覧しますと、多数の医師がAMRについて意見を述べ関心を寄せていることが分かります。

     たしかに昔は外来ですぐに抗菌薬を処方する傾向がありました。もちろん最近では耐性菌のことを考え、私自身も本当に必要な患者さんにだけ必要な検査も実施した上で処方するようにしております。抗菌剤については常に心を砕き、熟慮して処方しているところです。それでも正直なところ、実地臨床の場では判断に迷うことが多くあります。それは「抗菌剤を処方すればAMRを起こすし、処方しなければ疾病が悪化するかもしれないし・・・・」というジレンマです。このように判断に迷ったとき、今回、公表された手引きは大いに手助けになる存在と感じています。常に手引きを参考にして現場に臨むことは、結果的に医療レベルの向上に寄与するものと思います。

     手引きでは特に急性気道感染症および急性下痢症の二つに関して重要なことが記載されています。

     まず前者の急性気道感染症についてです。図4に示しましたように急性気道感染症は感冒、急性鼻副鼻腔炎、急性咽頭炎、急性気管支炎の4つに分けられます。患者さんが「風邪をひいた」と言って来られたときには4つのどの病態であるかをしっかりと判断することが必要です。このような分類は、これまでにもなされていますが、厚生省が体系的に示したのは初めてのことです。その対応方法は、概ね次の様であることが手引きで示されています。

     感冒とは発熱の有無を問わず、鼻症状、咽頭症状、下気道症状の3系統が同時・同症度に存在する病態です。感冒と判断されれば抗菌剤処方をしないことが推奨されます。次に急性鼻副鼻腔炎は発熱の有無は問わず、くしゃみ、鼻汁、鼻閉のある病態です。症状から重症度を判定し、重症の場合だけ抗菌剤を処方することが推奨されます。また急性咽頭炎は喉の痛みを主症状とする病態です。検査をしてA群β溶血性連鎖球菌が検出されない時は、抗菌剤処方をしないことが推奨されます。反対にA群β溶血性連鎖球菌が検出された場合は、アモキシシリンという抗菌剤を10日間処方することが推奨されています。最後の急性気管支炎とは発熱や痰の有無は問われませんが、咳を主症状とする病態です。成人の気管支炎は百日咳を除いて抗菌薬を処方しないことが推奨されています。

     以上、簡単に紹介しましたが、詳細については手引きを手元に置いて参照にしていただければと思います。重要なことを一言でいうと、「急性気道感染症の患者さんでは抗菌剤が必要なことは少ない」ということです。患者さんの中には「風邪なのに抗菌剤を処方してくれないのは、どうしてか」と言われる方もおられます。その時には抗菌剤が不必要なことを分かり易く説明し、御納得をいただくことが大切です。

     次に後者の急性下痢症です。手引きでは、急性下痢症とは発症から14日以内のもので普段の排便回数よりも軟便や水様便が1日3回以上増加している状態をいいます。治療としては、先ず水分摂取と対症療法が推奨され、抗菌剤は菌血症などの重症に限って投与することと手引きで記載されています。またサルモネラやカンピロバクターによる腸炎であっても、その患者さんが健常者であり、またの軽症である時は抗菌薬処方を推奨しないと手引きで示されています。

     以上のように本手引きの記載は、臨床現場に踏み込んだものであります。驚くこと、戸惑うことも正直少しあります。また手引きで述べられたことはあくまでも基本的な方針であることに注意が必要です。手引きにも、診療手順の目安を示したものであり、実際の診療では医師の判断が優先されると書かれています。また重症、いわゆるRed Flagを呈する患者さんが、大勢の軽症患者さんの後ろに隠れるようにしておられるものです。そのために臨床医は基本を忠実に守りながら、それと同時に重症例を見逃さないようにせねばなりません。したがって日常臨床の場では医師は手引きを念頭に置きAMRの基本を順守すること、重症例の見極めを念頭におくこと、心を研ぎ澄ませて診療にあたる必要があります。そして手引きを反復して読解し、理解に努めることが重要であります。さらに将来、様々な意見が述べられ、本手引きが適切に改変されていくことが望まれます。

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    図1 抗微生物薬適正使用の手引

    http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000166612.pdf#search=%27%E6%8A%97%E5%BE%AE%E7%94%9F%E7%89%A9%E8%96%AC%E9%81%A9%E6%AD%A3%E4%BD%BF%E7%94%A8%E3%81%AE%E6%89%8B%E5%BC%95%27

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    図2 薬剤耐性(AMR)に起因する死亡者数の推定

    耐性率が現在のペースで増加した場合、2050年には1000万人の死亡が想定

    (現在のがんによる死亡者数を超える) 厚生省による

    http://www.kantei.go.jp/jp/singi/kokusai_kansen/yakuzaitaisei/dai1/siryou2-1.pdf

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    図3 厚生省作成のアムロとAMRをかけたポスター

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    図4 急性気道感染症の概念と区分

    http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000166612.pdf#search=%27%E6%8A%97%E5%BE%AE%E7%94%9F%E7%89%A9%E8%96%AC%E9%81%A9%E6%AD%A3%E4%BD%BF%E7%94%A8%E3%81%AE%E6%89%8B%E5%BC%95%27

     

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