小雨の大都会

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小雨の大都会

  • 2017.10.27

     久し振りに講習会の出席を目的として東京に出かけました。あいにくの小雨のため、上京しても行動が制限されることになりました。雨でなければ電車で移動をするはずのところ、タクシーを利用せざるを得ませんでした。雨を避けるために立ち寄った建物の窓から、珍しいアングルでの眺めを楽しむことができました。それは浅草寺と東京スカイツリーを同時に望む景色です(写真1)。この遠望はあまり経験できない貴重なものかもしれないと、一人で悦に入りました。また会場の医師会館近くには六義園(写真2)があり、都心の中の奥深い緑は素晴らしいものでした。それにしても東京の少し雨に霞んだ風景は、なかなか風情がありました。

     

     参加した講習会は日本医師会の主催による医療安全推進者養成講座です(図1)。正直なところ臨床医は医療安全というテーマには、あまり触れたくないものです。それはつまり医療安全=医療事故と頭の中で何となく結びついてしまうからです。いくら一生懸命、医師が患者さんに誠実に対応しても医療は不完全なものであり、残念ながら医療事故は一定の確率で発生するものです。ですから臨床医は常にストレスにさらされているのです。つまり臨床医は、医療事故に当事者として関わりたくないのです。

     しかし今回、講習会に参加したことで医療安全における基本的な考え方を改めて学ぶことができ、医療事故についても少し考え方が変わりました。得られた知見・見識には多くの学ぶところがありまた。そこで私なりに理解した講演内容の一部だけを紹介したいと思います。私が理解した範囲での紹介であり、誤解していることもあるかと予め断っておきます。

     演者は次の3人の先生でした。新星総合法律事務所の弁護士・医師である児玉安司氏、奈良県総合医療センターの上田裕一氏、山王メディカルセンターの宮田哲郎氏の3氏です。いずれの方々のお話も含蓄に富み、時間はまたたく間に過ぎていきました。3氏の講演内容の要点をほんの少し紹介してみます。

     まず医療訴訟についてです。もちろん医療訴訟は回避したいものです。その発生件数はどんな状況なのでしょうか?図2に最高裁が発表した医療訴訟第1審の新規受付数と既済件数をもとに図を作成してみました。まず新規受付数は本図をみると分かりまように平成11年から急激に増加しています。ところが平成16年には件数がピークに達したのですが、その後は減少傾向がみられているのです。ところがここで注意すべきことに、ここ2,3年再び新規受付数に上昇傾向がみられている点です。一方、既済件数も次第に増え、平成16年から平成25年までは新規件数を上回っていました。つまり結審に至る件数が多くなり、結審までの時間が短くなったのです (図3)。これは最高裁判所が平成13年に鑑定人候補者を早期に選定し,各界の有識者に医事紛争事件について様々な意見を述べてもらうことを目的として医事関係訴訟委員会を設置したことによります。ところが残念なことに、ここ数年は既済件数が再び減って新規受付数が増え、図2の右端のようにワニが口を開いた状況になっているのです。このことについては大いに注意が必要です。

     医療訴訟の増加は社会的な雰囲気、個人的な感情に影響されると考えられています。大事なことは、後者の個人的な感情については患者さんに対する医師のコミュニケーションスキルが大切ということです。医師と患者における医療の信頼基盤は、医師と患者が相互理解と情報共有をすること、医師は情報の受信・発信の交差点となること、そして医師が患者とのコミュニケーションを上手にとること、この3点が重要なのであります(図4)。つまり医師は最新の上質な医療情報を常に学び、これを患者さんと上手にコミュニケーションをとって情報を伝えて共有し、相互信頼をすることが大切ということであります。これは面白い考えであり、今後は積極的に利用していきたいと考えたところです。

     次に第三者が関わる医療事故調査(以下、事故調)と医療の質についてです。記憶に新しいところでは群馬大学医学部付属病院における事例があります。これについては事故調の報告書が公開されています(図5)。これは昨年7月に報告されたものですが、残念ながらあまり多くの医師が読んでいないとのことです。本報告書には再発防止策が高い志しで公開されており、医療に携わる人間は是非読む必要があると思います。私も現在、少しずつ読んでいるところです。本事故調で最も画期的であったことは委員会に外部の第三者委員が加わったことです。これは大変稀なことであります。事故調委員会は35回開かれ、会議210時間以上の審議を重ね、そのうえで提言を述べています。医療者は今回の報告書からこれを貴重な先例とし、日本の医療を変容させていく必要性のあることがまとめとして書かれています。

     最後に医療事故に対する基本姿勢についてです。それは隠さない=信用の保持、ごまかさない=正確な情報、逃げない=誠実な対応が必要というものであります。また医療事故に関わった当事者(医師、看護師)に対する対応も重要であります。それは当事者が第二の犠牲者(second victim)となるかもしれないからです。そのために事故調の委員会は「医療過誤か否かの判断も行うのではないこと、また個人の責任を問うものではないこと」をまず明確にしておく必要があります。何故なら医療事故を個人の過失として責任を追及しても本質的な解決にはならないからです。つまり「誰がしたのではなく、何故事故が発生したのかのプロセスを検討することが重要」なのです。個人の非難は役に立たないのです。エラーを防止する上で唯一で最大の障害となることは「ミスをしたという理由で人々を罰する」というものです。大事なことは「人間はミスを犯すものだ」ということを認識し、システムのよくないところを明らかにして改善すること、これが医療の安全性を高めるのです。図6のようによくない脆弱なシステムではなく、回復力のある安定したシステムを構築していく必要があります。医療事故が起こった時、その臨床経過を明らかにし、分析評価し、そして再発防止策を示すことこそが必要なのです。今回は大変有意義なことを色々と学びました。また機械があれば参加したいと感じたところです。

     

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    写真1 小雨に煙る浅草寺とスカイツリー

     

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    写真2 会場の日本医師会館近くにある六義園

     

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    図1 当日のレジメ表紙

     

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    図2 医事関係訴訟事件の受付と処理状況

     

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    図3 医療訴訟における平均審理期間

     

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    図4 医師と患者のコミュニケーション

     

     

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