秋の到来

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秋の到来

  • 2017.09.29

     少しずつと爽やかな時候になってきました。小・中学校では運動会や音楽会などの秋の行事が催されています。暑い夏の疲れから今頃になって体調を崩される人もおられるかもしれません。また時ならぬインフルエンザの流行もあるという状況です。皆様、無理をなさらずに秋の到来を楽しんで下さい。近くの公園にもコスモスが満開状態となっています(写真1)。そんなわけで秋が深まることを感じている今日この頃です。

     

     最近、多くの子どもさんがアレルギー性疾患(アトピー性皮膚炎、食物アレルギー、喘息、花粉症)で悩んでいます。厚生省の調査でも、アレルギー性疾患が増加傾向にあることが示されています(図1)。なかでも乳幼児におけるアトピー性皮膚炎、そして食物アレルギーについては、お母さん方の感心や心配が極めて高いところであります。日本では乳幼児のアトピー性皮膚炎の有症率は5ないし32%(アトピー性皮膚炎ガイドライン2015)、また食物アレルギーの有症率は5ないし10%との報告(食物アレルギー診療ガイドライン2016)がなされています。つまり大変多い疾患ということになります。端的にいって我が子がアトピー性皮膚炎にかかっている、また食べ物で蕁麻疹が出てショックを起こす等ということは誰にとっても大きな問題であります。もちろん現場の医師もアレルギー性疾患について強い関心を持ち、疾患に対する研鑚に努めています。ただアレルギーについては本当に多くの情報があるため、かえって混乱しそうな状況です。

     

     そんな折、国立成育医療研究センターの大矢幸弘アレルギー科医長の講演を聴く機会がありました。演題は「アトピー性皮膚炎の治療と食物アレルギーの予防」です。おかげで頭の中に断片的にあった知識が整理されることになりました。もちろん「食物アレルギー診療ガイドライン2016」(写真2)という本も手許におき、自宅学習も講演後に励みました。ただ奥深い領域です、まだ理解不足のところもあるかもしれません。それでも自分なりに少しずつアレルギーについての展望が広がってきたところです。

     まず、ひとことで講演の結論をいうと「食物アレルギー(food allergy、以下FD)が発症するリスク因子としては乳児期のアトピー性皮膚炎(atopic dermatitis、以下AD)が重要である」ということです。幼児早期からADへの正しいスキンケアをすること、そしてこれによってFDが予防出来る可能性があるのです。その理由としてADなどの湿疹が乳児にあると皮膚バリア機能が低下し、皮膚を通じて抗原が体内に侵入すること(これを経皮感作といいます)があげられます。FDは口から抗原をとり入れる経口感作ではなく、経皮感作なのであります。経皮感作が大きなウエイトを占めているのです。これは大変インパクトがあります。かつてはADの対応とFDの対応はそれぞれ別々のものとして実施されていました。現在ではFDの対応にはまずADを理解し、抗原の経皮感作を阻止することが重要とされているのです。具体的にはスキンケアをして皮膚の保湿をはかり、経皮感染を妨げることであります。以前はFDは経口感作と考えていたため、厳重な食事制限が中心でありました。ですから妊娠しているお母さんに対する食事制限をすることはもとより、生れた赤ちゃんに対しても食事制限(例えば卵摂取の禁止)が実施されていました。つまり早期に抗原刺激となる食物、これは主に卵、牛乳、大豆という3大アレルゲンと呼ばれるものですが、これらを早期から制限すること、そして摂取しなければFD発症を阻止できると考えていたわけです。そのため離乳食の開始もなるべく遅い方が良いと考えられていました。現在においても離乳食の開始を遅らせる傾向が年ごとに進んでいます(図2)。これは「抗原となる食事をできるだけ子どもが大きくなるまで避けたい」というお母さん方の心理を反映しているのでしょう。今でも抗原摂取を遅らせるという考えが残っているわけです。しかし、これら食事制限は長期的にみて推奨できるものでないことが現在では確認されています。膨大な研究報告が「FD発症予防のため特定の食物摂取開始を遅らせることは長期的にみるとかえってFD発症を増加させる」と結論づけているのです。たしかに私の臨床経験からも食事制限をしても効果がなく、少量ずつ開始する方が好ましいことを何となく以前から実感していました。

     次にFDの抗原については鶏卵だけしか、まだ解明が進んでいないことを理解しました。牛乳、大豆アレルギーについては、困ったことに解明がまだ少ないのです。3大アレルゲンのうち鶏卵だけが比較的検討が進み、分かってきたに過ぎないというところです。大矢先生も鶏卵アレルギーに絞って話を進め、自分たちのグループによるPETIT(プティ)スタディを示して研究結果が紹介されました。PETITスタディはLancetという雑誌(図3)に掲載されていますが、極めて説得性がある内容であります。論文に記載されている「鶏卵アレルギー発症予防に関する提言」は大変分かり易いものでした。PETITスタディには幾つかのポイントが示されており、興味深いものですので私の独断で一部だけを選び紹介してみます。

     第一のポイントとしてADの乳児を対象とし、生後6ヶ月から卵を摂取する群と生後12か月まで卵を除去する群に分け卵アレルギーの発症を比較しました。すると前者は8%、後者は38%という発症率でありました。つまり制限した群においてアレルギー発症率が高かったのです(図4)。さらに注目すべきことは摂取した卵量が微量(6~9ヶ月は0.2g/日、9~12ヶ月は1.1g/日)であるということです。つまり少量食べて予防するというスタンスが必要ということが明らかにされました。

     二つ目のポイントは湿疹つまりADの乳児にこそ早期に少量ずつ卵を与えていくことが必要ということであります。ここで大事なことは生後6ヶ月までにADと診断された乳児に対しスキンケアを実施すること、さらに、その後6ヶ月以降になれば積極的に卵の少量摂取を開始していくことなのです。何はともあれ、とにかくADのスキンケアは大切なのです。ただしこれらの対応が全てのFD児に有効かについてはまだ不明であり、今後の課題となっています。

     三つ目のポイントは環境中の食物アレルゲンについてです。家庭内の家具や遊具にわずかながら食物アレルゲンが存在付着しているという事実です。付着したアレルゲンは当然、経皮感作を起こします。これについてはすでに論文もあることを初めて知り、少し驚いた次第です。

     最後のポイントとして、すでに重症のFD児については安易に卵摂取をすることは危険ということであります。一方ADと診断されていない乳児については(まだはっきりと分かっていませんが)、同じように少量摂取をすることは妥当かもしれないとされています。

     いずれにせよFDについては実際の現場ではまだまだ多くの困難もあります。ただ基本的に早期からのスキンケア、そして少量ずつ食べてFDを予防するということが重要であります。もちろん専門医のもとでの経過観察が大切なことはいうまでもありません。

     

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    写真1 満開のコスモス

     

     

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    図1 アレルギー疾患の現状等 厚生労働省健康局がん・疾病対策課  平成28年2月3日

       http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10905100-Kenkoukyoku-Ganshippeitaisakuka/0000111693.pdf#search=%27%E3%82%A2%E3%83%AC%E3%83%AB%E3%82%AE%E3%83%BC+%E7%96%BE%E6%82%A3+%E6%82%A3%E8%80%85%E6%95%B0+%E5%8E%9A%E7%94%9F%E7%9C%81%27

     

     

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    写真2  食物アレルギー診療ガイドライン2016 協和企画 出版

     

     

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    図2 離乳食の開始は遅くなる傾向が認められる

     

     

     

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    図3 雑誌ランセットに掲載されたPETITスタディ

    ランセット電子版から一部抜粋

    http://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(16)31418-0/abstract

     

     

     

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    図4 卵アレルギー発症予防研究

    http://www.igaku-shoin.co.jp/paperDetail.doid=PA03222_02

     

     

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