睡眠の日
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2017.09.14
さる9月3日が「睡眠の日」であることを御存知ですか?今回私は初めて知りました。健康や医学に関する記念日にはどんなものが設定されているのか、こんなことを最近調べていました。そんな折、睡眠の日があることを発見し、知ったのです。3月3日の耳の日、8月7日の鼻の日などは比較的よく知られていることでしょう。直近では9月9日の救急の日というものがありました。これはメディアでも紹介されていましたので御存知の方も多いでしょう。これに対し睡眠の日は知名度が低く、その理由は設定されてまだ日が浅いからと思われます。睡眠の日が制定されたのはつい最近の2011年のことなのです。精神・神経科学振興財団と日本睡眠学会が3月18日と9月3日の2つの日を設定しました。その目的は、良い睡眠は子どもの心身成長に重要なこと、また生活習慣病を予防しようというのものであります。因みに3月18日は「世界睡眠の日」であることから、また9月3日は「ぐっすり」の語呂合わせから選定されました。このように年に2回、春秋に睡眠の日が設けられており、今回はあらためて睡眠の重要さについて考えて直しました。とりわけ我々日本人の睡眠について検討してみました。
まず日本人の睡眠時間についてです。総務省統計局の調査によりますと15歳以上の人の日本人平均睡眠時間は平成23年で7時間29分です(表1)。約30年前の昭和61年の7時間41分から日本人の平均睡眠時間は少しずつ短くなっていることがわかります。30年前に比べて12分短くなっているのです。またNHKの世論調査結果についても検討してみました。やはり年毎に少しずつ平均睡眠時間が短くなっていることが分かりました。ただ2年前の平成27年にはわずかばかり睡眠時間が長くなっています(図1)。さらに厚生省による平均睡眠時間の年次推移をみてみますと、6時間未満の人が有意に増加しているのです(図2)。つまり日本人は平成27年には平均睡眠時間が少しだけ長くなったものの、6時間未満の人は増加しているというわけです。このことはよく睡眠をとる人とあまり睡眠をとらない人の二極化が進んでいることとも推測されます。つまり極端に言えば、よく寝ている人と、あまり寝ていない人が世の中に存在しているということとなります。気の毒なことに平均睡眠時間が6時間未満の人は日中眠気を感じている、また睡眠時間が足りないと感じていることが、厚生省の国民栄養調査で明らかにされています(図3)。図3を見ると分かりますが、睡眠時間が6時間未満の男性においては「日中、眠気を感じた」という比率が44.5%と高い状況です。また図にはありませんが、女性ではその比率は、48.7%と半分近くに達していました。いわば「睡眠時間の短い人のうち半数近くが昼間、眠気と戦っている」というのが現状なのです。これは本当に困ったことであり、仕事の効率という点からみて大変な損失であります。私たち日本人はもっと良質の睡眠を維持していくことが急務といえるでしょう。
また気になることとして、日本人の睡眠時間には男女格差がみられることであります。日本の女性、とくに働いている女性は睡眠時間がことさら短いということが最近の総務省による調査で明らかにされています。後でも述べますが、諸外国では日本と全く反対に女性の平均睡眠時間は男性のそれよりも長いのです(図4)。女性の睡眠時間が短いということは日本固有の特徴ある現象とされています。日本では女性の役割分担量が多いのがその原因かといわれています。朝早くから起きて朝食・お弁当をつくる女性(母親)の姿は、日本中どこでも見られる風景です。それにしても睡眠時間における男女の性差、つまり「男女によって睡眠時間の長さが異なる」ということに対して医学的なエビデンスはありません。では何故、このように日本人の睡眠時間は短いのでしょう。これは少し難しい問題であります。考えられる原因は幾つか挙げられています。日本人は長時間労働が多いこと、通勤時間が長いこと、昼間の居眠りが上手なこと等々があります。ただ直感的に言って「寝る時間を削ってでも働く」ということを善とする考えが日本人の心に潜在的に存在しており、やはりこれが大きな原因かと思います。
次に日本と外国における睡眠時間の比較についてです。平成26年度の厚生労働白書によりますとOECDの国々の中では男女とも最低の平均睡眠時間(男472分、女453分)でありました(図4)。「日本人には不眠不休の傾向があるのか!?」と思わざるを得ません。反対に最長はフランスの女性の518分で大変に長く、子ども並みの睡眠時間であります。
最後は子どもさんの睡眠時間についてです。厚生労働省の調査によりますと赤ちゃんの睡眠時間は図5のとおりで10時間台が最も多く、比較的よく寝ていることがわかります。ところが眠りにつく時刻を調査したところ、日本の赤ちゃんは最も就寝時間が遅いという結果でした(図6)。さらに1から4歳の子どもさんの睡眠時間について外国と比較調査したところ、やはり大人同様世界最低の睡眠時間でありました(図7)。これは少し驚くべき事実だと思います。大人の睡眠時間の短い影響を子どもが受けていることをうかがわせる状況です。しかし案外、当の我々日本人が知らないことと思います。
結論を述べますと、世界の中では日本人の睡眠時間は大人も子どもも世界一短いこと、男女格差があることです。我々日本人は今少し長く寝ること、休む必要があると思われます。
秋が近づいてきました。近くの公園にはコスモスが咲いています(写真1)。灯火親しむころ、スポーツ、運動、食欲の秋です。何をするにしても良き時候ですが、睡眠はしっかりと摂るべきだと今回の検討から考えたところです。
表1 15歳以上の方々の睡眠時間(平日総平均)総務省統計局統計調査部
http://www.stat.go.jp/info/today/105.htm図1 睡眠時間の時系列変化 NHKの世論調査結果から
http://www.nhk.or.jp/bunken/research/yoron/pdf/20160501_8.pdf図2 1日の平均睡眠時間の年次推移(20 歳以上、男女計)(平成17~27年)
1日の平均睡眠時間が6時間未満の者の割合が平成19年以降有意に増加
平成27 年国民健康・栄養調査結果の概要 厚生労働省
http://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-10904750-Kenkoukyoku-Gantaisakukenkouzoushinka/kekkagaiyou.pdf図3 1日の平均睡眠時間別、睡眠の質の状況(20 歳以上、男)
平成27 年国民健康・栄養調査結果の概要 厚生労働省による
http://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-10904750-Kenkoukyoku-Gantaisakukenkouzoushinka/kekkagaiyou.pdf図4 睡眠時間の国際比較 平成26年版厚生労働白書
http://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/kousei/14/backdata/1-2-3-22.html図5 子どもの睡眠時間
厚生労働省:第4回21世紀出生児縦断調査
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/syusseiji/04/kekka3.html図6 赤ちゃんが寝る時間の国際比較
文部科学省子どもの生活リズム向上ハンドブックより
http://vpoint.jp/education/27114.html図7 東京都教育委員会 子どもの教育支援プロジェクトによる
http://www.nyuyoji-kyoiku-tokyo.jp/pdf/seen2/slide2_pdf_27.pdf#search=%27%E6%97%A5%E6%9C%AC%E3%81%AE%E5%AD%90%E3%81%A9%E3%82%82+%E7%9D%A1%E7%9C%A0%E6%99%82%E9%96%93++%E5%9B%BD%E9%9A%9B%E6%AF%94%E8%BC%83%27写真1 近所の公園で咲いているコスモスの花