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インフルエンザの流行

[2019.01.30]

   外来における小児科の診療では何といっても感染症が非常に大きなウエイトを占めています。冬の感染症の王者ともいうべきインフルエンザが、現在のところ大流行しています。昨年12月辺りから全国で猛威を振るいはじめ、今や子どもさんだけではなく、親・兄弟そして祖父母へと襲い掛かっています。国立感染症の統計によると、第3週 (1月14日~1月20日)では定点当たり報告数は53.91(患者報告数267,596)となりました。前週の定点当たり報告数38.54より増加しております。表1に示すように注意報レベルとは定点当たり10人、警報開始レベルとは30人という意味です。53.91とは今や大流行中ということになります。そのため現在、急病センターをはじめ、各医療機関では患者さんの多さにパニック状態の様子です。またインフルエンザの流行を県別にみますと愛知、埼玉、静岡に多い状況であり、同地方の人は注意して下さい。いずれにしろ、一日も早くインフルエンザの大流行が収束してほしいものです。

 

 

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表1 定点当たりの報告数  その注意報・警報について

   神戸市のHPから一部転載

   http://www.city.kobe.lg.jp/life/health/infection/trend/doukou.html

 インフルエンザ診療のトピックに昨年の春から患者さんに処方できるようになったゾフルーザ(バロキサビルマルボキシル、写真1)という抗インフルエンザ薬があります。ゾフルーザは1日に1回服用するだけで済むという長所があります。つまり服薬が1回だけと簡便な薬剤なのです。患者さんの中には新聞などでゾフルーザのことをすでに知っておられ、外来での処方を望まれる方もいます。ゾフルーザの特徴的な作用「ウイルス量を減らし大流行の阻止につながる」等をすでに一般の人々も御存知なのです。メディアでは夢の薬剤のような扱いをしているものもあるようです。医師としては、まずは従来からある抗インフルエンザ薬(タミフル、リレンザ、イナビル)について十分にインフルエンザ患者さんに説明します。それでも患者さんの強い希望に押され、ゾフルーザを処方することもあります。たしかに処方してみるとドラマチックに効く印象もあります。文献上、従来の抗インフルエンザ薬よりも有熱期間を短くされており、確かにそういう印象はあります。何よりも患者さん自身が、ゾフルーザの有効性に大変驚かれるというのが現状です。このようにゾフルーザの処方が現在、大変増えているようです。このため今や製薬メーカーがゾフルーザの出荷制限をかけざるを得ない状況になっているのです。

 ゾフルーザの剤型は現在のところ錠剤だけですが、今後ドライシロップ剤が登場する予定です。ドライシロップ剤が処方できるようになると小児科では一気にゾフルーザドライシロップ剤の処方増えるものと推測されます。それは、何といってもゾフルーザの良い点は1回の服用だけで済むというところにあるからです。ですから薬剤服用を嫌がる子どもさんには朗報と言えるでしょう。ある調査によりますと約200人の医師にアンケートをとったところ、「7割近くの医師がゾフルーザの処方を増やすつもり」と回答したとのことです。

 しかし一方において新薬を処方するということについては臨床医は危惧を覚えるところであります。これは医師の正直な心情です。その理由は、まず新薬を大勢の人に処方すると未知の副作用が起こるかもしれないこと、それとゾフルーザを多くの人に投与すると耐性を獲得したインフルエンザウイルスが出てくる可能性を危惧するからです。基本に立ちかえってみますが、抗インフルエンザ薬は健康なインフルエンザ患者さん全員に必ずしも必要な薬剤ではありません。これが原則であり、安易なゾフルーザ処方は考えねばなりません。それどころかゾフルーザに関し、米国感染症学会は「低いエビデンスレベルと推奨度で条件付きでゾフルーザを考慮する」とさえガイドラインに記載しています。また日本小児科学会でも「ゾフルーザについては十分なデータをもっていないので検討中」としており、従来の抗インフルエンザ薬の使用が困難な時にゾフルーザ投与を考慮するものとしています(表2)。このような考えのもと、日本でも有名な千葉県のK田病院ではゾフルーザの採用を見合わせているとのことです。

 たしかに私もゾフルーザの処方については慎重であるべきと考えています。外来ではゾフルーザについて丁寧な説明を心がけています。とはいえゾフルーザの内服によりすぐに解熱し、インフルエンザが軽快されるのも事実です。ことに子どもさんが1回だけの薬剤服用で短時間のうちに元気になる姿を目のあたりにしますと、ついゾフルーザを投与することに傾きかけます。

 このようにゾフルーザについて私自身は慎重な態度に終始していました。すると1月の下旬にゾフルーザ耐性ウイルスのニュースがメディアで報道されました。国立感染症研究所が1月24日に「ゾフルーザを処方された患者さんから変異したインフルエンザウイルスが検出された」と発表したのです。「あぁ、そうか」というのが正直な思いでした。ゾフルーザは治験の時点で9.7%の患者さんにおいて薬剤耐性のウイルスが出現していることがすでに分かっていました。9.7%とは従来の抗インフルエンザ薬よりも高い数値であり、ゾフルーザは耐性ウイルスが多いことが示されています。今回、ゾフルーザ耐性インフルエンザウイルスを見出したのは横浜市衛生研究所です。6才と7才の2人のインフルエンザ患者さんにゾフルーザを投与し、その3日後に耐性マーカーである138Tアミノ酸置換が検出されたという報告です。138Tアミノ酸置換をもつインフルエンザウイルスは、ゾフルーザ耐性のウイルスであります。たしかに私の少数の経験でも速やかな改善がみられないインフルエンザ患者さんがおられました。これはゾフルーザの耐性インフルエンザが関与していたのではないかと推測しています。

 いずれにしろ新薬の処方についてはゾフルーザに限らず慎重な処方、丁寧な患者さんへの説明が重要と今更ながら考えたところです。

 

 

  

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写真1 ゾフルーザ  塩野義製薬のHPから引用

https://www.shionogi.co.jp/med/zaikei/drug_sa/qdv9fu000001a7ud-img/xfl20mg_04_hi.jpg

 

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表2 2018/2019 シーズンのイフルエザ治療指針 抗インフルエザ薬から

日本小児科学会のHPから引用

http://www.jpeds.or.jp/uploads/files/2018_2019_influenza_all.pdf

 

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